最近、むすめ(4歳)がしばしば口にする言葉がある。「けっこん」だ。
どうやら、大人たちがやたらと意味ありげに扱うこの言葉に、興味を持ったらしい。むすめがよく遊んでもらっていた夫の友人が結婚したというニュースや、テレビで目にした某ブライダル情報誌のCMなど、あちこちから断片的に情報を拾っては、それらを手がかりに「けっこんとは何か」を一生懸命に考えている。
最初に彼女が導き出した答えはこうだった。
「仲の良い人たちが、おしゃれをしてパーティーをすること」
うーん、なるほど。間違いではない。
それからのむすめは、毎日のようにそこかしこで「けっこんしよう〜」と言うようになった。私にも夫にも、保育園のお友達にも、誰彼構わずプロポーズ。「けっこん」をおぼろげにしか理解していない4歳児たちは、これまたいとも簡単に「いいよ〜」と答えるものだから、ついにはクラス全体で“けっこんごっこ”がブームになった。先生から「お散歩に行った先の公園で、草花を片手に結婚していましたよ。5〜6人で手を繋いで、ぺこりとおじぎをしていました」と聞いたときには吹き出してしまった。

とはいえ、むすめの中で「けっこん」の定義は日々更新されている。
彼女の「けっこん観」が一歩深まったのは、ディズニープリンセスの映画を観てからだった。
「けっこんってね、好きな人と、ずーっと一緒にいるって約束することなんだよ」
ちょっとロマンチックな方向に舵を切りはじめた。だんだん近づいてきたぞと思った矢先、事件は起きた。
夫が友人の結婚式に出席する日。スーツにネクタイ、ピカピカの革靴でばっちり決めた姿で、出発前に「じゃあ、行ってくるよ」と声をかけたそのとき——
「おとーちゃん、どこいくの?」
むすめが寝ぼけ眼でリビングに登場。

「結婚式だよ!」と夫。
言った瞬間、空気が変わった。
むすめ、固まる。彼女の目がみるみる潤みはじめ、そこで大体何が起きたのかを理解した私と、全く状況が飲み込めず一人焦る夫。
不安げな顔でむすめの放った一言が、
「おとーちゃん、おかーちゃんとけっこんしてるんじゃないの?」
……ああ、やっぱり。
「おとーちゃんは、おかーちゃんと結婚しているし、結婚はやめないよ。今日はお友達の結婚をお祝いしに行くだけだから」
いくつかの質疑応答を経てやっと納得したむすめは、「ふぅ」と大きなため息をついてから、ようやく朝ごはんに手を伸ばした。まだその頬には涙の粒が乗っている。
それにしても、「けっこん」とは何か。大人でもうまく説明できないこの概念を、たった4歳の脳みそで必死に理解しようとしている姿は、愛おしくてちょっと滑稽で、それでいて哲学的でもある。
彼女の“けっこん考”は、まだまだ道半ば。
きっとこれからも、テレビを見ては、友達と遊んでは、「あれがけっこんか!」と、少しずつアップデートしていくのだろう。
我が家ではしばらく、「けっこん」が頻出ワードであり続ける予感。
この“けっこん考”に続編があるやなしや、乞うご期待…!